発展繁栄の法則
「発展繁栄の法則」
『致知』2010年4月号 特集総リードより
志摩半島にあるそのホテルは、さる著名な経営者がバブルの最中に計画、三百八十億円を投じて平成四年に完成した。
全室から海が見渡せる設計。贅を尽くした内装。足を運んだ人は、誰もが「素晴らしい」と歓声を上げる。
しかしバブル崩壊後、経営不振が続き、十年前にホテルは人手に渡った。新経営陣も経営を軌道に乗せるべく手を尽くしたが、赤字は年々嵩む一方となった。
仙台で小さなエステを経営していた今野華都子さんに白羽の矢が立ったのは、そんな時だった。平成十九年、今野さんは現オーナーに請われてホテルの社長に就任した。今野さんを迎えたのは社員百五十人の冷たい、あるいは反抗的な視線だった。それまで何人も社長がきては辞めている。また同じ繰り返し、という雰囲気だった。
今野さんがまず始めたのは、社員一人ひとりの名を呼び、挨拶することだった。また、全員と面接し、要望や不満を聞いていった。
数か月が過ぎた。今野さんは全社員を一堂に集め、言った。
「みんながここで働いているのは、私のためでも会社のためでもない。大事な人生の時間をこのホテルで生きる、と自分で決めたからだよね。また、このために会社が悪くなったとみんなが思っている不満や要望は、私や経営陣が解決することではなく、実は自分たちが解決しなければならない問題です」
そして、今野さんは二つの課題を全員に考えさせた。
「自分は人間としてどう生きたいのか」
「自分がどう働けば素晴らしい会社になるのか」
ホテルが変わり始めたのはそれからである。自分の担当以外はやらないという態度だった社員が、状況に応じて他部門の仕事を積極的に手伝うようになっていった。
就任二年半、ホテルは経営利益が出るようになった。全社員の意識の改革が瀕死のホテルをよみがえらせたのである。
今野さんが折に触れ社員に伝えた。「自分を育てる三つのプロセス」というのがある。
一、笑顔
二、ハイと肯定的な返事ができること
三、人の話を肯(うなず)きながら聞くこと
仕事を受け入れるからこそ自分の能力が出てくるのだから、仕事を頼まれたらハイと受け入れてやってみよう。
「できません」「やれません」と言ったら、そこですべての可能性の扉が閉まる。
そして、教えてくれる人の話を肯きながら聞くのが、自分を育てていく何よりの道なのである。
今野さんはそう言う。
この三つはそのまま、人生を発展繁栄させるプロセスである。すべての繁栄は人から始まる。ひとりの人間が自らの人生を発展繁栄させていくことが、そのまま組織の発展繁栄に繋がる。しかも、その発展繁栄の法則は極めてシンプルである。
今野さんの事例はそのことを私たちに教えてくれる。
弘法大師空海の言葉がある。
「物の興廃は必ず人に由る 人の昇沈は定めて道にあり」
「民族滅亡の三原則」
中條高徳(アサヒビール名誉顧問)『致知』2010年7月号 特集「道をつくる」より
いったいこの国はどこに行くのだろうね。
私はこの間『致知』(4月号)で「民族滅亡の三原則」というのを紹介しました。
一、理想(夢)を喪った民族
一、全ての価値をもので捉え、心の価値を見失った民族
一、自国の歴史を忘れた民族
こういう民族は滅びていくことを歴史は証明しているだけれども、我らが愛する日本はいま、まさにこの3つの道を辿っているように思えてなりません。