「絶対に成功しない人、4つの条件」

              『致知』1999年2月号 特集「精神爽奮」より

 以前、ある経営者に、人生でいちばん大切なものは何かと尋ねたことがある。その人は「それは自分にもわからないが、 こういう人は絶対に成功しないという条件はある」と答えられ、次の4項目を挙げられた。

1つは言われたことしかしない人、

2つは楽をして仕事をしようとする――そういうことが可能だと思っている人、

3つは続かないという性格を直さない人、そして4つはすぐに不貞腐れる人、

である。

 省みて、深くうなずけるものがある。多くの人生の達人が教える人間学のエキスは、いつ、いかなる状態においても、常に精神を爽やかに奮い立たせることの大切さである。精神爽奮――そこに人生を開く鍵があるように思われる。

 

 

「人間の脳が持つ3つの本能」

              『致知』2012年12月号    特集「総リード」より

 太古から今日まで、生命は一貫して二つの原理によって存在している、という。

一つは代謝であり、もう一つはコミュニケーションである。

代謝によってエネルギーをつくる。コミュニケーションによって新しい生命を生み出す。この二つの原理によらなければ、あらゆる生命は存在し得ない。

この生命を生命たらしめている二つの原理は、人間の幸福の原理と対をなすように思われる。

即ち、あらゆる面で代謝(出と入)をよくすること。そして物を含めた他者とのコミュニケーションをよくすること。そこに人間の幸福感は生まれるのだ。聖賢の教えは、極論すれば、この二つを円滑にするための心得を説いたもの、とも言える。

脳の専門医、林成之氏は、どんな人の脳も三つの本能を持っている、という。

一は「生きたい」、

二は「知りたい」、

三は「仲間になりたい」という本能である。

この脳の本能から導き出せる「脳が求める生き方」は一つである。

「世の中に貢献しつつ安定して生きたい」

ということである。

脳の本能を満たして具現するこの生き方は、そのまま人が幸福に生きる道と重なり合う。

そこに大いなる宇宙意志をみる思いがする。

遠くから来た私たちは、宇宙意志のもとに、幸福を求めて遠くまで歩み続けているのかもしれない。

 

 

 「幸運をつかむ3つのプロセス」

              『致知』2011年5月号   特集「新たな地平を拓く」より

 

昨年(2010年)10月、二人の日本人科学者が揃ってノーベル化学賞を受賞され、日本国中を沸かせた。鈴木章さんと根岸英一さんである。そのお一人、根岸さんが特別出演された新春のテレビ番組を視聴し、深く感ずるものがあった。

「自分は科学者だが、中小零細企業の社長と同じです」と根岸さんは笑いながらそう話し出された。

ヒト、モノ、カネをいかに裁量するかが事業経営の要諦だが、科学技術の開発もまた、その苦労から逃れ得ない、ということだろう。

また、科学者は一つの研究が成ったらそれで終わりではない、さらに新たなテーマを見つけ挑戦していかなければならない、という話をされた。

根岸さんはいま、海水中にあるウランを活用する技術の開発に取り組んでいると目を輝かされていた。そして、長年のご体験から掴まれた発見に至るプロセスを図式化して説明された。

発見はまず、こういうものが欲しい、こうなったらいいという「ニーズ」「願望」が出発点である。そのニーズや願望を達成するために「作戦」を練る。この作戦でいこうと決めたら、それに沿う方向で「系統立った探求」を始める。

この系統立った探求が難物である。途中で、もうやめようか、と迷う瞬間が何度もある。失敗が続き、こんなことをやっていても無駄だ、と思う時がある。

その時、「いや、絶対に屈しない。これでいくんだ」と思い続けられるかどうか──。そう思い続けるには、「知識」「アイデア」「判断」が要る。

この3つが不屈の「意志力」「行動力」を生む基になる。これらの難関をくぐり抜けて「幸運な発見」が生まれる、というのである。この発見のプロセスは、科学技術に限ったことではない。あらゆる仕事に共通した普遍の法則というべきものであろう。新たな地平を拓くための要訣を示した法則だ、とも言える。

 

 

 

 「創業理念の再検討」

         牛尾治朗(ウシオ電機会長)  『致知』2013年1月号   特集「不易流行」より

 

私は三十三歳で会社をつくった時に三つの経営理念を掲げました。

一つは、会社の繁栄と従業員の人生の充実が一致する経営をしようということ。

二つ目が日本の中堅企業から世界の中堅企業になろうということ。

そして三つ目が、安定利潤を確保して研究開発を通じて社会に貢献すること。

この三つを変えてはならない当社の経営理念として貫いてきたのです。

ところが最近は、人生の充実といっても社員それぞれ非常に多様化してきましてね。会社の繁栄と一致させることが難しくなってきたんです。

それから、二つ目の世界の中堅企業へという理念については、いま急激に技術が高まっていて、グローバルベースでは新製品の開発にかかる金額も桁が一つ大きくなってきているんです。これまで当社はどこの系列にも属さない独自ブランドとしてやってきましたが、今後は他社との連携も必要になってきます。

さらに三つ目の安定利潤の確保というのも、コンスタントな収益は連結結算ベースで達成することが可能であり、個別の会社がすべて安定利潤を確保し続けることは困難な時代になってきています。

そういうわけで、間もなく迎える五十周年の節目に、創業理念を再検討しようと作業中です。不易として大事にし残すべき部分と、二十一世紀型に変化させる流行の部分の区別を明確にする必要があると考えているのです。守るべき部分を堅持しつつ、常に変わり続けていく。

政治も企業経営も、リーダーは目まぐるしい時代の変化に翻弄されることなく、不易流行をしっかり弁えて道を切り開いていかなければなりませんね。