10人の法則

西田文郎(サンリ会長)『致知』2009年7月号 特集「人生をひらく」より

 

(北京五輪で金メダルを取った女子ソフトボールチームは)優勝が決まった時、選手の皆さんが人差し指を天に突き上げて、ナンバーワンポーズをしていたんです。
あれは脳が目標を無意識に反復するためのボディーランゲージだったんですね。どういう動作にするかはチーム内で決めてもらいましたが、それを日々練習の時から反復してもらったり、筋肉をリラックスさせるための呼吸法など、生理学的にベストコンディションになるようなことは、もちろんお教えしました。
それ以外にお釈迦さんの六方拝をやっていただいたり……。
(六方拝?)
お釈迦様は東西南北と天地、要するにすべてに感謝しなさいと言われました。これを選手用にアレンジしまして、東に向かって先祖に、西に向かって家族に、南に向かって恩師に、北に向かって友人に、そして天地に向かって自然に感謝してくださいと。
また、用紙に自分の名前を中心に書いて、その周りに恩師とは誰なのか、家族には何を感謝するのか、ということまで明確に書いてもらいました。
これらのことは、選手の皆さんには「外気を取り入れる」という言い方をしましたが、多くの人がいてくださって生かされているという感覚を持っていただきたかったんですね。
ただ、人間の思いは思っているだけでは強化されませんから、「特に感謝すべき人を十人挙げて、感謝の心を伝えに行く」ということを実践してもらいました。
これは何も彼女たちに限ったことではなくて、私は経営者層や他の職種の人たちにも言っていることなんです。
「あなたの感謝すべき十人の名前を挙げなさい。そして一年以内に感謝を伝えに行きなさい」と。

また、応用編として、
「お金持ちになりたければ、十人のお金持ちと付き合いなさい」
「頭のいい人間になりたければ、十人の頭のいい人間と付き合いなさい」
と言って、これを「十人の法則」と呼んでいます。その対象は亡くなった人でもいいんです。ピッチャーの上野由岐子選手は、亡くなられた高校時代の監督さんのお墓を拝みに行きました。
そうして「ありがとう」と伝えるだけで、自分のエネルギーがなくなった時に、先生から見えないエネルギーをもらっているんだという気持ちになる。
また、自分の言動は全部記憶データの中にインプットされますから、いざという時に表れるんですね。
例えば、試合中ピンチが訪れた時、味方がエラーした時……。
自分自身はもちろん、チームメイトを信じられることが、最終的にチーム力となって絶対表れると思いました。だからそういうことに取り組んでいただいたのです。
ただ、これはスポーツ選手に限った話ではないので、ぜひ一般の方にも六方拝、「十人の法則」をやっていただきたいと思いますね。